1 題材の目標   2 題材の評価規準 3 主な学習内容と評価 アドバイス 資料

① 「VTRを鑑賞した感想文」 このVTRは、約20年前にNHKで放映されたものである。中学校の体育教員だった星野富弘さんは、体操の指導中に鉄棒から落下して頸椎を骨折し、首から下が動かなくなってしまった。ベットの上で口に筆をくわえ、妻に助けられながら花の絵を描く姿は、見た人の心を揺さぶる。
自分の生き方はこれでいいのだろうか、自分にもできることがもっとあるのではないだろうかと、多くの人たちはそんな気持ちに駆られる。
これまで千人を超える生徒たちとこのVTRを鑑賞してきたが、感動を綴った生徒の感想文を目にするたびに、できるだけその気持ち忘れずに創作活動を続けていってほしいという気持ちを強くもつようになった。
そこで、感想文をスケッチブックの見開きページに添付することにした。スケッチブックを開くたびに、VTRでの感動が脳裏をよぎるだろうと考えたからである。私もこれまで、数え切れないほどの感動を体験してきたが、それを持続する難しさを感じている。
何年か経って本当に忘れてしまった頃、この感想文が役に立ってくれたらと思うのである。
② 「VTRからペン画と水彩画の魅力を感じる」 このVTRに写る星野さんの姿は、真に迫った記録映像だけに、単なる技術解説にない説得力がある。
絵の具の混色の仕方、筆の運び方、余白の残し方、運筆など、水彩絵の具の基本的な使い方と実践が端的に見て取れ、技術書のような解説がない分、鑑賞者の読み取ろうとする意志が働くように思う。
実際の技術指導においても、言葉での解説よりも、やって見せる方が効果があり、さらにまねて慣れながら徐々に自分のものにしていく必要がある。
解説書などでたやすく入った知識は、忘れるのも早く定着しにくい。反対に何年もかけて自分の身体の一部になった技能は、考えなくても身体を自然に動かしてくれる。そのレベルが高いほど、創造の幅が広くなる。
③ 「モチーフを見る時間と手元を見る時間の関係」 対象物の形をしっかりとつかみ取れている生徒と、そうでない生徒との大きな違いは、対象物を見る時間の長さと見方にあると思われる。
例えば、木の枝が幹から分かれるとき、幹も枝と反対方向に少し傾く。変化させずにまっすぐに描いた絵と、そのように描いた絵を同時に見せると、ほとんどの生徒は本当の形に気づく。
しかし、普段私たちは見ているようで見ていないことが多く、意識しないと目の前にあるものでも見えないようになっているらしい。
私たちの周りにはあまりにも多くの情報量があり、すべてを処理することができないので、生きていく上で最も必要なものから処理しているというのである。普段私たちは、そのことを意識していないので、いつも見ているのにどうして形を正確に思い出して描けないのだろうと悩むことになる。
私は、写実的な表現を可能にするためには、ものを意識の対象下に置いて自然のフォルムを鋭敏に感じ取れる感覚を常に働かせるようにするとともに、平面を立体的に錯覚させる透視図法などの技法を理解し習得していくという二つのことを同時に学習していく必要があると考えている。
これまでは、後者に対する指導が多く実践されてきたが、前者のような見え方について意識し、その優先順位を上げていく指導法が重要ではないかと考えている。
④ 「線の強弱で立体感を表現する」 ペンの彩色画では、線描した物に着彩するという技法が多く用いられるが、気をつけないと塗り絵風になりがちである。
そこで、輪郭について少し考えてみたい。
物には実際には輪郭は無い。物と周りの物との間に境目があるだけだ。数学でいうところの点が移動してできる軌跡としての線の概念と同じで、太さも無いはずである。
物の輪郭を線で描写する際の状態を考えてみると、便宜上目に見える線にするという以外に、形の単純化や象徴化が行われていることに気が付く。漫画やイラストはその良い例である。
漫画が分かり易いのは、物の特徴を端的にとらえるとともに、デフォルメや省略を巧みに用いて多くの人が理解できる視覚的共通言語で表されているからである。
また鉛筆で描写する場合は、線の集合によって面を作り立体感や質感などを表現するが、ペン画の場合は性質上濃さを変えるのは難しく、線で面を作ると強い調子になってしまう。
そこで、ペンの方向や力の入れ具合で線の太さを変えて立体感をもたせたり、線をとぎれさせて空間を感じさせたりするたりする毛筆画にも用いられる手法を習得させたい。
⑤ 「自分流のペンを作る」 手づくりのペンには、自分流の線を作り出せる楽しみがある。市販のものは使いやすいようによく研究されている。
しかし、例えばチューブになった絵の具は、いつでも手軽に描けるように工夫された優れた画材であるが、絵の具の緑が自然の緑であると思ってしまったり、絵の具が何でできているのかということも考えたことがないということも起こってしまう。
ときには、道具や用具を手づくりしてそれらの考え出された経緯を追体験してみるとよいだろう。
P39の図3のように、ペン先を2つに割って万年筆のように墨の溜まり場を作ると、長い線が引けるようになる。
ペンの材質や削り方によって線の調子も変わるので、何度も試し描きをしてみて自分好みのペンになるようにしたいものである。
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